HONDA CB1100EXで往く。「夏の風。あの夏をさがして……。」

夏の風。あの夏をさがして……。

●文─松井 勉 ●取材協力-ホンダモーターサイクルジャパン

「支払い方法を選んで下さい」「油種を選択して下さい」「確認ボタンを押して下さい」「給油キャップを開けて下さい」「静電気除去パッドに触れてから給油を開始して下さい」
 ムゴォォォ〜ン。ポンプが動いてノズルから白い激流となってガソリンがタンクに注がれている。体に触れた黒いホースから脈動のようなうごめきがつたわってくる。8リッター、満タン。
「給油キャップの閉め忘れにご注意下さい」「レシートをお取り下さい」
何度か機械とのそんなやりとりをしながら走り続けた。

 暑い中を走り出す。白いCB1100EXは図太い、と表現できるいい音を2本出しマフラーからはき出す。スポークホイール、それにCB750FOURを思わせるシートなど、細かいトリムに伝統が漂う。
 冷たい燃料を入れたにもかかわらず17リットルのタンクは涼感を醸すことはなく、空冷の熱を浴び続ける膝が「笑う」ことは無かった。

「各地でこの夏一番の気温を記録しました。岐阜県多治見市で39度、名古屋でも38度・・・・」と、前夜のテレビのニュースは伝えた。気温34度や35度はもはや涼しい。事実、今日は32度でも過ごしやすく感じた。日陰の百葉箱よりよほど路上は暑かったはず。どう逆立ちをしても空冷日和とは言えない酷暑。CB1100EXも悲鳴を上げていたのかもしれない。

 さ、夏の風を見にゆこう。気軽な気持ちで飛び出したが、とんでもない1日だった。しかし状況は雨でガラリとかわる。
 翌日、宿の外に吹いている風はどこか秋めいていた、というと気が早いが、とにかく前日とはまったく変わっていた。出がけにたっぷり摂った水分が、走るほどに風に吹かれ、ひんやりと汗となって乾く。
 そんな気持ちよい空気だから、夏の風は何処にでもあった。田んぼの中の一本道、橋で越えた河原、そして旧道にあった古い町並み。それこそ、赤で止まった交差点ですら景色と青空と白い雲が絵になった。それにCB1100EXは飛ばす気にならない性格だ。こんな言い方をしては誤解を受けるかもしれないが、急いでどうする、とバイクがゆったりとした速度での移動を見事に演出する。


CB1100EX Eパッケージで出た夏の風探し。ふと目に泊まった田んぼの中の一本道。大きくなりつつある稲穂が垂れ始め、真夏に知る秋の到来の予感。
CB1100EX Eパッケージで出た夏の風探し。ふと目に泊まった田んぼの中の一本道。大きくなりつつある稲穂が垂れ始め、真夏に知る秋の到来の予感。

 国道をゆく。二車線の田舎道だ。
 ウゥゥゥー、とタイヤを鳴らし荷の重そうなトラックが夏の道を行く。50キロ。そのペースでもまったく退屈しない。時折ちょっと急いでみるが、船頭が地元ナンバーの軽トラへと代わったどころで再び移動速度は50キロへ。でも気持ちいいのだ。

 河原に降りてみた。河床は荒い砂。その色は褐色だった。川の先にある雲がやっぱり夏の風を思わせる。しばらく行くと大きな湖があった。湖畔沿いに伸びる道に、ヘルメットを被った中学生だろうか並んで自転車を漕いでいる。部活の帰りか、二人とも焼けて真っ黒。

 湖面を眺めると、風が広い水面を渡って行くのが解る。眩しい。もう何年も前だけど、みんなで泊まった宿がこの奥にあったなぁ。渓流沿いに建つ当時できたての別館だ。そこまでの道すがら、まるでスペインか! という眺めがあった。あちらならオリーブ畑かオレンジ畑だ。ここは何の畑だろう。その谷間にやっぱり夏の風が吹く。



この空なら走れば30分で靴まで乾く・・・・。このままジャブジャブ入ってしまいたい。負けそうになる透明度の誘惑
この空なら走れば30分で靴まで乾く・・・・。このままジャブジャブ入ってしまいたい。負けそうになる透明度の誘惑。


湖面にできた風紋。海に近い水面に海風が渡る
湖面にできた風紋。海に近い水面に海風が渡る。


トラックの後ろを着いて走っていたら突如開けた風景。柑橘類だろうか。荒涼とした土地に緑を育てるスペインの後継と重なった
トラックの後ろについて走っていたら突如開けた風景。柑橘類だろうか。荒涼とした土地に緑を育てるスペインの光景と重なった。

 ワインディングに入るとそれまで大人しかった CBが気持ち良く駆け出す。広い浜辺で遊ぶ大型犬のように、楽しそうに右、そして左に車体を傾け、減速し、加速する。切れ味抜群、とか、アドレナリンが噴出する、というスポーツライクな言葉が脳天直撃するわけではないが、走るのが嬉しい、楽しい。

 里山を縫う道を40分ほど走り、川を何本か越えた。緑の稲穂は早くも重く垂れはじめている。夏本番だが、来る秋を匂わせる季節感はあちこちにあった。
 シフトアップしてアクセルを開けるたびにズォォォォン、という太い排気音を耳に届けるCB。その音が風で消されないために飛ばさない、というのもあるのかもしれない。1本マフラーのCB1100と2本マフラーのEXの違いはこの辺に現れている。

 狭い線路沿いの道に入った。こんなとこ通ったっけ? 川沿いのその道から岩盤の上を流れる水が涼しげだった。その先に駅があった。道とホームが繋がっているような場所で、時刻表によればあと1時間、往来はない。岩盤が山肌から剥き出しになった風景にもどこか夏の風が吹く。

 結局、あちこち捜したのだが「たぶん、この宿だ」と確信が持てなかった。ただ、川の向こうにあった施設には見覚えがある。間違い無く僕はここに来た。あの夏は遠い。



すだれの奥で風鈴がなる。涼感を届ける夏の知恵。昼にむけ太陽はわずかな日陰を削り取るように頭上へと動き続けている
すだれの奥で風鈴がなる。涼感を届ける夏の知恵。昼にむけ太陽はわずかな日陰を削り取るように頭上へと動き続けている。


旧道で出会った神社。伝統ある趣きに2014年製のレガシー封入済みモデルは見事に対峙した
旧道で出会った神社。伝統ある趣きに2014年製のレガシー封入済みモデルは見事に対峙した。

 齢50を数えると、あと何回、バイクで夏を楽しめるだろう、なんて考える。ただ、今、バイクを買う人の平均年齢が50歳台だという。なんだ、平均、ということはまだまだど真ん中。と油断したりもする。嬉しい誤算にせよ勘違いにせよ、やりたいことを確実にクリアさせる、には喧しくなったように思う。
 夏の風を捜しにふらりと来たこの日、記憶の断片があちこちで欠けていることも解った。もう一度、こんどはあのとき、一緒に来た誰かと来ねば迷宮入りする。



サーとザァーの中間ぐらいの見た目よりしとやかな音で流れる川。水面が巻き起こすのか涼しい風が吹く


少し走ると細い川はダイナミックに表情を変えていった
サーとザァーの中間ぐらいの見た目よりしとやかな音で流れる川。水面が巻き起こすのか涼しい風が吹く。 少し走ると細い川はダイナミックに表情を変えていった。

 ウゥゥゥゥゥ〜。セメントトラックがタイヤを唸らせ、50メートル前を走る。かつてのように黒煙を吹くトラックはいなくなった。でもそのほのかな熱と排気の匂いは、首筋にまとわりつくような粘り気を思わせる。
 道の左にある景色を見ながら「何時か行ったあの場所、もう一回行こうよ」とあのときの誰かを誘うとすると、知らぬ間に時がたつ。行動力のあるオトナ、という表現に、ほのかな焦りがあることを知ったのは最近のことだ。
 白いCB1100EXは相変わらず唯我独尊な速度で進む。自宅まで300キロ。ガッツリある。でもこれに乗っていると不思議とゆったりした気分のまま距離を重ねられるのを感じた。また来るとき、どんな風が吹いているのだろうか・・・・。

 


6速CBは燃費もエライ!

 CB1100EXはCB1100にとって2型にあたる。ミッションが6速化され、2本マフラーとスポークホイール、シートなどにも厚みを持たせた意匠は、よりクラシックなCBレガシーを受け継ぐ正統派だ。
 1本マフラー、キャストホイールのCB1100も6速化されたが、燃料タンク容量は14リットルと細身のまま。EXはより大きな17リットルタンクを装備する。
 2014年春のマイナーチェンジで燃費計や燃料流量計なども装備され、航続距離に神経を使うコトが多かったCB1100には、なによりもまず増量タンクがうれしい、と思っていた。
 今回、エコランをしたわけではなく、CB1100EXが持つハンドリング、エンジン特性が醸す乗り味に身を任せた速度で走っていたら、燃費計も想像以上の数値を示した。今回、計測区間で997キロを走り、使用した燃料は39.8リットル。約1000キロ走った総合燃費は25.0km/l。これには高速道路、一般道も含めての数字だ。高速道路は概して90〜100キロ巡航。一般道は流れに合わせる、ワインディングはお気楽なペースで、走っている。
 高速道路をメインに走った255.1キロ(トリップメーターの数値。燃費と使用燃料から逆算すると254.8キロとなる)で流量計が示す数値が9.3リッター。燃費計は27.4km/lを示した。実は途中、28km/l台中盤を維持していたのだが、東名高速の御殿場からの渋滞などによりここに落ち着いた。
 もう一つの驚きは、流量計が示す使用燃料と実際に自分で給油する時の数値がコワイ程揃っている点だった。燃料計には悪いが、バーグラフ式でデジタル6分割表示のそれよりよっぽど頼りになった。6速化の効果もあるが、バイクとの対話を楽しむと燃費も伸びるようだ。
 燃費の良さで話題となったNCシリーズで鈴鹿を往復した時も思ったが、エンジン、車体の特性がライダーの走り方に与える影響は大きい。もちろん、ガンガン開けて行けば今回のような燃費は出ようハズもない。ただ、CB1100EXのスイートスポットの一つ、ゆったりとビッグネイキッドで流す乗り方をすると、意外と小食だった、ということだ。
 今回はリアシートに荷物を載せて一人旅だったが、リアキャリアを付けて二人乗りでもバッチリ楽しめそうだ。このバイクだと、トップケースやパニアを付けるより、雰囲気にあったバッグを選び、キャリアのど真ん中に積むようなラッシングの技も入れつつ、遠出も楽しめるだろう。特にETC、グリップヒーターを備えた今回のEパッケージ搭載車だったから、季節を問わず、ストレスフリーな走りを楽しめる。さらにギャザーズMのG3ナビゲーションを装備していたことで、迷子から解放された気楽さはない。正味2日で1000キロを走り、このバイクの魅力を再確認したのである。

100キロでおよそ2800回転。6速効果がある巡航 燃料流量計が9.5リットル、給油したガソリンの量が9.54リットル。ほぼ同値。他にもメーターが11.2 リットル、給油量が11.4リットル、メーターが9.4リットル、給油量が9.3リットルと、安定して常にニアピンだった 燃料流量計が9.5リットル、給油したガソリンの量が9.54リットル。ほぼ同値。他にもメーターが11.2 リットル、給油量が11.4リットル、メーターが9.4リットル、給油量が9.3リットルと、安定して常にニアピンだった
100キロでおよそ2800回転。6速効果がある巡航。 燃料流量計が9.5リットル、給油したガソリンの量が9.56リットル。ほぼ同値。他にもメーターが11.2 リットル、給油量が11.4リットル、メーターが9.4リットル、給油量が9.3リットルと、安定して常にニアピンだった。
トータル997 キロを走り、39.8リットルを使い、平均燃費25km/lだった トータル997 キロを走り、39.8リットルを使い、平均燃費25km/lだった トータル997 キロを走り、39.8リットルを使い、平均燃費25km/lだった
トータル997キロを走り、39.8リットルを使い、平均燃費25km/lだった。


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